2026/06/10 16:12
紹介文
第一部
源氏の血を引く父と、平氏の血を引く母との間に生まれた花房あきら。
争いの時は終わり一つに結ばれた源平の血、まさに平和の象徴です。
あきら君は友達と共に冒険を楽しみながら、やがて探偵へと成長してゆくのです。
その成長の過程を描いてみました。
江ノ島で毎年開かれている恒例の子供探偵大会。
あきら君は、その暗号を解いてゆくのです。
更には、日の丸岩の探検で考古学へも興味を示してゆくのです。
ペトラ遺跡とクフ王のピラミッド、そのロマンを味わいます。
第二部
湘南海岸に浮かぶ烏帽子島。
そこで後北条の古文書を探します。
そして、さらなる宝を探してゆくのですが、その過程において年上の女性と恋仲になり、結婚という真の宝をも見つけてゆくのです。
第三部
探偵となった花房あきらは、賭博の絡んだ事件に遭遇します。
はたして、その賭博は善なのか、悪なのか・・・・・。
その意外な結末とは・・・・・。
そして次なる事件。
女性が裸で街中をさまよう、という奇妙な事件に巻き込まれてゆくのです。
誰が、何のために・・・・・。
更には怪盗アマンの登場。
果たして、探偵 花房あきらの活躍やいかに・・・・・。
(この作品は、400字詰め原稿用紙149枚の作品です。)
はじめに
”時のうつろい”からの続きになります。
源頼房を祖と仰ぐ、源氏の流れをくむ和辻政信。
その和辻政信の子孫である花房龍之介。
そのまた子孫の花房あきら。
母方は、平氏の流れをくむ北条早雲の血筋。
源氏の血筋と、平氏の血筋が、目出度く結ばれて花房あきらの誕生となるのです。
第一部
子供探偵大会
託された銅板
ペトラ遺跡
クフ王のピラミッド
第二部
一 なぞの文章
二 更なる謎
三 謎の解明
四 本当の宝
第三部
探偵として
琥珀のしたたり
藤本英明
第一部
子供探偵大会
北鎌倉は春です。
暖かい陽の光が燦燦と降り注いでいます。
小鳥は歌い、蝶は舞い、草木は萌黄の新芽に包まれ始めているのです。
北川米子の邸宅は、横須賀線の北鎌倉駅にほど近い、閑静な住宅地にあります。
生垣に囲まれていて、南に面している広い芝生の庭があるのです。
花房あきら君は、その伯母の家へ遊びに来ているのです。
小学六年生を迎える春休みのことでした。
湘南の風は、爽やかです。
今日は江ノ島で子供探偵大会があるので伯母と一緒に行ってみる予定になっていました。
あきら君は起きると直ぐに雨戸を開けます。
気持ち良い朝です。
庭の芝生が清々しく、小鳥の囀りが心地よく聞こえています。
伯母は一人暮らしなので朝食は伯母が作ってくれるのです。
ハムエッグに野菜炒めが炊き立てのご飯によく合います。
その上おいしい味噌汁なのです。
「ごちそうさま」と、あきら君。
今朝も残さずきれいに頂いて満足の様子。
伯母も世話のし甲斐があるのでしょう、可愛がってくれるのです。
地元のテレビ放送で今日の子供探偵大会のことが報じられています。
毎年行われている恒例のイベントなのです。
台所のあとかたずけが終わった伯母はお洒落をしています。
あきら君も戸締りOK、準備OK。
さあ、出発です!
伯母の車は白のスポーツタイプで、その運転は華麗そのもの。
海岸沿いの道を風に吹かれながら進んでゆくと、やがて江ノ島です。
そして橋を渡ります。
広場が会場になっているのです。
朝から大勢の親子連れで賑わっています。
あきら君たちも、それに加わりました。
子供だけでは危ないので保護者同伴が原則なのです。
ヨットハーバーには沢山のヨットが並んでいます。
岩場の方では釣りをしている人も多いのです。
江ノ島神社の参道も賑わっていて、土産物屋が活気づいています。
饅頭《まんじゅう》の蒸籠《せいろ》が湯気を吹いていました。
「お集りの皆さーん!
朝早くからご苦労様です。
おかげさまで子供探偵大会も今年で五十回目を迎えることができました。
これも偏《ひとえ》に皆様方の謎解きに対する情熱の賜物です。
今後ともよろしくお願いいたします。
さて、今年の暗号は皆様のお手元に前もってお届けしたものでございます。
この三日間で謎は解けましたでしょうか。
どうぞ宝の鍵を見つけてください。
もちろん、それは、この江ノ島のどこかにあるのです。
ご検討をお祈りいたします。」
また、これを読まれている皆さまも先へ読み進める前に、ぜひ、今から三日間のうちに暗号を解いてみてください。
難しいと思いますので、大人の人に相談しながらがいいでしょう。
これが暗号です。
10000=036
2776 94135 24164
以上です。
謎を解く
さて、読者の皆様。
暗号は解けましたでしょうか。
そうとう難しい暗号だと思います。
結局、この暗号を解いた人はいなかったのです。ただ一人、花房あきら君を除いては。
「ご来場の皆様。
この暗号を解いた方が、お一人だけ、おられました。花房あきら君です。
あたたかい拍手をお願いします。
「パチパチパチパチッ!」
それでは、この謎を解いた道筋を説明していただきましょう。どうぞ・・・・・。」
そこで、あきら君は語り始めます。
「この謎を解く鍵は、最初の数列にありました。
10000=036です。
一万=036ですが、これを、どう解いたらいいのか・・・。
036はオサムと読めるではありませんか。
一万=おさむ、です。
マンは、おさむ、です。
マンはオサム。あるいは、まんがおさむ。
そうなのです。漫画おさむ、と読めるではありませんか。
漫画おさむ、と言えば、文字通り漫画の神様とまで言われている手塚治虫先生のことに違いないのです。
手塚治虫先生と言えば、その代表作は、もちろん鉄腕アトムでしょう。
そして、鉄腕アトムというのは何を意味しているのでしょうか・・・・・。
アトムといえば原子。そこで、暗号の数列を解く鍵となる物は何か、と思ったときに思い浮かぶのは、元素の周期表だったのです。
やってみましょう・・・・・。
2と7の交わったところはRa。
7と6でRe。
つぎの数列は、9と4でCo。
1でh。
3と5でy。
そして次の数列は、2と4でCa。
1でh。
6と4でCr。
RaRe。 CoHY。 CaHCr。
これでは何のことか、さっぱり分かりません。
ただ、RaReはレアと読めます。
そうなのです。二番目と三番目の数列は解き方が間違っていたのです。
9と4でCo。
次が1ではなくて、13と5なのです。すると、In。
三番目は、2と4でCa。
16と4でSe。
これなら意味が通じます。
Coinでコインです。
Caseでケース、箱です。
レアなコインケース。珍しいコインケースです。
江ノ島でコインケースと言えば、江ノ島神社のお賽銭箱でしょう。
しかも、珍しいものとなれば、巾着の形をしたお賽銭箱があるではありませんか。
そうして、無事に宝の鍵を見つけることができました。以上です。」
広場へ集まっている人たちは、ただただ感心するばかりでした。
お昼は伯母と共にしらす丼を食べた修一。
江ノ島では釣りを楽しむこともあるようです。
どういう訳か、橋のたもとでは黒鯛の子供が群れていて、それを、チンチンと呼ぶのだそうですが、その釣りだけでもけっこう楽しめるのです。
夕食には、畳いわしが出ましたので、それを細かくほぐして、ご飯の上へまぶし、お湯をかけて頂きました。
花房家は、源頼房を祖と仰ぐ家柄で父方に受け継がれています。
一方、母方は平氏の血を引く北条早雲の血が流れているのです。
ここに、源氏と平氏の血が一体となって花房あきら君が誕生しました。
平和が訪れたのです。
あきら君の活躍やいかに・・・・・。
それから月日は流れ、あきら君は田舎での暮らしを楽しんでいます。
学校の講堂は木造の重厚な造りで、学芸会の時や映画や人形劇の鑑賞などの時に使われているのです。
人形劇のお手伝いをすることもあります。
道具の搬入搬出などで、時には劇そのもののお手伝いもします。
今日の演目は、オズの魔法使いで、あきら君が裏方のお手伝いをしていると、ふいに、人形を扱うように言われたのです。
劇は、丁度ドロシーたち一行がエメラルドの都を目指して森の中へ差し掛かったところで、怪獣に追われて丸木橋を渡るところなのです。
みんな渡り終わって、一番後から遅れて逃げていた案山子が、いま渡ろうとしているところで、それを、あきら君が演じています。
ご注意が出ているのです。
「まだまだ、まだまだ!」
そうなのです。
怪獣を引き付けるだけ引き付けてから丸木橋を渡るというシーンです。
「渡って!」という合図とともに、一気に丸木橋を渡らせます。
そして、みんなで「よいしょ、よいしょ!」と、掛け声を合わせながら、丸木橋を谷底へ落とすのです。もう怪獣は追ってこられません。
みんなで「わーい、わーい!」と、万歳をするのでした。
ほんの僅かなお手伝いでしたが、あきら君にとっては又とない、貴重な体験となりました。
そうかと思えば、市民会館で行われる演劇を見に、下級生たちを引率するお手伝いもあるのです。
道々、事故の無いように注意をします。
それと同じ様に、下級生たちとさせて頂く街頭募金のお手伝いをすることもあります。
少しでも先生方のお手伝いになれば何よりなのです。
入道雲がムクムクと湧き上がっています。
蝉の声が頭の中まで染み透るようで、今は夏だぞと言わんばかりです。
こういう時には、かき氷の宇治ミルク金時が思い出されます。
そうして夏休みに入り、月日は流れていったのです。
忙しく日々を送っているうちに、あきら君は、いつの間にか中学一年生になっていました。
学校は小中高一貫校で育成部があり、あきら君は育成部長なのです。
歴史にも興味がある、あきら君ですが、学校の傍の山は城山と呼ばれていて、何度も授業で調査に訪れています。
古代の山城の土塁や石積みが残されているのです。
もう崩れかけていますが、今でも、その痕跡が分かります。
あきら君は、一人で来ることもあるのです。
とても興味を惹かれるからでした。
総社にある鬼ノ城と同じく、発掘調査によれば、七世紀後半に築かれたもののようです。
白村江の戦いで、唐・新羅連合軍に大敗した後、大和朝廷は倭の防衛のために、対馬~畿内にいたる要衝に様々な防御施設を築いています。
鬼ノ城は史書に記載がなく、築城年は不明ですが、発掘調査では七世紀後半に築かれたものとされているのです。
古代吉備の国の栄えた証しでしょう。
歴史というものは、なんとロマンに溢れているのでしょうか・・・・・。
あきら君の興味を惹き付けて止まないのでした。
